2日前
職員室の入り口のところで誰かが俺の名前を呼んで笑っている。
誰かが手を振っている。
笑いながら手を振っている。
俺の名前を呼んでいる。
誰だかわからない。
まったく思い出せない。
5秒ほど過ぎる。
どうしたらよいのか。
この仕事していると、教え子の数はどんどん増える。
全員をおぼえているわけではない。
顔と名前を憶えて、一生忘れないという特技もない。
誰なのか。
手繰り寄せる記憶の糸をなんとか探し出さねばならない。
いちミクロンほどの細い糸を。
最近の教え子ではまったくない。
ただ雰囲気的にはどこかで教えた生徒に違いない。
けっこう大人である。
まったくわからない。
7秒ほど過ぎた。
やばいな。
隣の席の教員がなにかつぶやく。
それがヒントか。
そうか、その教員のこどもさんのともだちの保護者で、俺のことを知っている人がいると
そう言っていたな。
十津川高校時代の教え子で。
そうかTZ村か。
すでに40代の半ばくらいか。
思い出せる当てもないほど、思い出すすべはほぼないけれど、思い出した。
思い出せないという可能性を通り越して何かがつながった。
記憶の糸を手繰り寄せた。
30年前やな。15歳とか16歳とかの時の生徒も俺と同じ時を経ている。
授業を教えただけやから、覚えていなくても不思議はないけれど、
その子の名前はフルネームで漢字で書ける。
奇跡的に、面目を保つことが出来たわけである。
30年前の生徒をすべておぼえているわけではない。
会いに来てくれる生徒なら、必ず思い出すことが出来ると
そういうことなかもしれない。
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